2020年テニスシーンの幕開け、初めての開催となった世界国別対抗戦ATPカップが開幕した。残念ながらケガのためエース錦織選手を欠く日本チームだが、2020年注目の世界73位西岡選手がシングルス1のエースポジションに抜擢された。
早々から熱い戦いが始まった今年のATPツアーだが、期待の西岡選手はどんな試合ぶりをみせたのだろうか?まずは初戦、対ウルグアイ戦、世界45位のパブロ・クエバス選手との一戦を分析してみよう。
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開幕戦の持つ意味
クエバス選手は34歳、ツアー優勝6回を誇るウルグアイのエースだ。180センチとそう大柄ではなく、爆発力こそないものの、フォア、バックの安定したストロークそしてサーブ、プレースメントも確実で、守備も固い、ステイブルな選手といえるだろう。
大崩れすることはなく、逆に相手が少しでもスキをみせると一気に付け込まれ、いったんペースをつかまれると戻すのは至難の業である。
73位の西岡選手にとって、これからランキング上位を目指すならば、まずは第一関門として立ちはだかる50位以内の壁、すなわちこのクエバス選手クラスのプレーヤーを倒さなければ先はない。
長いシーズンの開幕戦、良いスタートを切りたいことと同時に、自分のプレーをアピールするという機会でもある。
昨年の経験、オフのトレーニングで自分は相当のレベルアップをしていることをATPツアー全選手、スタッフ、コーチなどへ見せつける場だ。そんな中、西岡選手のサーブから試合は始まった。
クエバス選手戦戦況1
https://www.youtube.com/watch?v=IV3cKIDD1tQ
西岡選手は立ち上がりが素晴らしく安定している。錦織選手クラスでも、立ち上がりはローギア、60~70%程度のパフォーマンスでスタートする選手は多い。
しかし西岡選手は最初のサービスからほぼ普段通り、80~85%程度と思われるハイレベルな内容で入ってくる。
これは西岡選手のテニスが「ボールの回転力」をベースとしているからであろう。こういった入り方をする選手がもう一人いる。
ナダル選手である。
むしろ西岡選手が目標としている選手なので、話としては逆だが。
立ち上がりの1ゲーム目をキープした西岡選手、2019年シーズンに比し、サーブの回転力が上がっている。プロの試合であり、サウスポープレーヤーも数多く、回転が逆なので打ちづらいとはいえ、スピードではなく回転力でポイントを奪われることはそんなにない。
回転力で相手を牛耳れるのはナダル選手くらいであろう。
しかし西岡選手はこのウルグアイのエース、中堅どころの34歳に対し、回転力でミスヒットさせている。
アドコートからのワイドサーブを基軸に、デュースコートからもセンターへ逃げるスライスサーブ(いずれも右利きプレーヤーのバックへ逃げていくため、オープンコートを作りやすい)、そして回転力にものをいわせたボディに食い込んでくるサーブ、曲がり、回転力ともにアップしており、ミスの少ないクエバス選手が戸惑いをみせる。
ストロークも素晴らしい。
特にバックハンドはストロークスピード、タイミングともに速くなっており、矢のような弾道のボールがクロスコートへ炸裂する。
フォアハンドは回転量がこれもさらに増大している。高い弾道のボールもコートベースライン付近に見事に落ち、相手コート後方へ追いやる。
実力者クエバス選手がポイントで放ったボールが、わずかにアウトする場面が何度かあり、ツキの追い風を得た西岡選手が、なんと6-0のベーグルで第一セットを奪う。
クエバス選手戦戦況2
経験豊富なクエバス選手にとって第一セットの0-6はさほどの問題ではない。前回4年前ではあるが全豪で西岡選手にはストレートで圧勝している。しかもテニスの試合では0-6ダウンから2セットを奪うことなどしょっちゅうあることだ。
劣勢におかれた選手は、まず基本に戻りたがる。自らのサーブをキープする、そのサーブゲームではポイントを取るパターンをいくつか確立し、それを積み重ねて反撃のチャンスを待つ。
この試合のクエバス選手にとって、サーブゲームで安定してポイントを重ねていたのは、アドコートからのワイドへのサーブで西岡選手を大きく振り、西岡選手のバックハンド側にオープンコートを作って仕留めるパターンであった。
この牙城を崩されたクエバス選手が青ざめるシーンが第二セット第二ゲームで訪れる。クエバス選手15-30からの場面、見事なプレースメントをみせるクエバス選手を上回るフットワークとショット、そして読み、この試合でほぼ初めてクエバス選手18番のパターンからポイントを奪う。
そしてこのゲームをブレークして第二セットもリードする。これは単なるブレークではなく、相手の最も得意な攻め手を封じてしまうショックがダブルで効いてしまう大きなゲームだった。
クエバス選手戦戦況3
第二セット第三ゲーム、西岡選手1ブレークアップ2-0で迎えたサービスゲーム、1ポイント目でまさにこれぞ西岡選手という素晴らしいプレーをみせる。
ブレーク直後の1ポイント目でのこのプレーは、ほぼこの試合の流れを引き寄せたポイントである。ストロークで完全に主導権を握った西岡選手は、クエバス選手を振りまくり、詰め将棋のように完璧に追い詰め、ボレーで仕留める。
このサービスキープはクエバス選手に大ダメージを与える。
メンタルが切れたところを見たことがないクエバス選手が、次のゲームでよもやのプレーをしてしまう。淡泊に4本のミスを重ねて再びのブレークダウン、第二セットも0-4、勝敗はほぼこの時点で決した。
ギリギリのボレーで何とか1ゲームを取ったクエバス選手もここまで、なんと西岡選手が世界45位に6-0、6-1で圧勝である。
映像分析
https://www.youtube.com/watch?v=IV3cKIDD1tQ
35’12”付近から クエバス選手ポイントパターンを崩す
第二セット西岡選手からの1-0、クエバス選手はここを必ずキープして反撃に転じたいところ、その攻撃の基本となっていたパターンを西岡選手が見事に崩す。
37’05”付近から これぞ西岡選手!
第二セット 西岡選手1ブレークアップ 2-0からのサービスゲーム最初のポイント、サイドスピンの効いたフォアハンドで相手を振り回し、完全に主導権を握る。クエバス選手参った!
西岡選手大ブレークの期待
シーズン幕開け、だれしもが緊張するはずの状況で、西岡選手はほぼ普段通りのプレーをみせていた。メンタルがとてつもなく強い。どんな劣勢に追い込まれても、自分のプレーをやり続けて、不利な状況からも光の筋をみつけ、反撃の糸口を探す。
そして大けがを乗り越えたフィジカル、フットワークはさらに磨きがかかっている。これに加えたバックハンドのパワーアップ、フォアハンド、サーブの回転力増大、チャンスにおける組み立て、ネットプレー、西岡選手の武器は2019年よりも数段上がっているといえるだろう。
これにもし、ナダル選手のようなポール回しフォアハンドDLショット、錦織選手のようなバックハンドDLショットが加わったら?
考えただけでもゾクゾクしそうな、西岡選手2020年大ブレークの予感、期待だ!