テニスコメンテーターのTAMAJIです。世界的な新型コロナウィルス問題は大きな影響を多くの人々に与えています。現在も懸命に現場で戦う医療従事者に感謝の気持ちを込めて拍手を送るとともに、不幸にして亡くなられた方々のご冥福をお祈り致します。
さて、プロテニスツアーも完全休止状態ですが、今年ここまで大活躍をみせている西岡選手が使用しているラケット、ストリングス、シューズはどんなものなのかは大変興味深いことと思います。
ここでは、それらにはどういった特徴があり、西岡選手のプレースタイルにどう生かされているのかに迫ってみたいと思います。
目次
使用しているラケット


西岡選手が使用しているラケットは、ヨネックスの「VCORE98」というモデルである。VCORE98はヨネックス社が満を持して開発したラケットであり、ウィルソン社が「ウィルソンの革命」というキャッチフレーズで2019年発売した「CLUSH」とともに、センセーショナルな話題を振りまいた一品だ。
このVCOREというラケットは、西岡選手がみせるプレースタイルに大変マッチしたものといえるだろう。フォアハンドショットは強烈なスピンをかけ、高弾道から急激に落ちていくボールを放って見事にコート内深くえぐり、バックハンドはそれよりも直線的かつタイミングの早いショットでウィナーを生み出す。
身長171センチとツアーでもかなり小柄な部類に入る西岡選手、そのハンデをものともせず、トッププレーヤー達と互角の試合が展開できるのは、このスピンに裏打ちされたストロークショットが根底にあるといっても過言ではない。
では西岡選手がVCOREを採用している理由は何か?このヨネックス社VCOREの細部に迫り、その理由の根拠を探っていこう。
1) VCOREの概要
発売は2018年9月、このVCOREシリーズは、ヨネックス社がこれまで培ってきた技術の集大成とも言ってよいモデルである。ヨネックス社がこのVCOREの特長として、一押しであげるのは、「スピン量増大」だ。
西岡選手のプレースタイルは、特にフォアハンドからのヘビートップスピンによるショットを基軸としている。高弾道かつハイレベルなスピンレートを持ったボールを放ち、相手をジワリジワリと追い込んでいって、ポイントを奪っていく。VCOREがこの西岡選手の基本戦略を担っているといっても過言ではないだろう。
ではそのスピン量増大のため、ヨネックス社はどんな技術を投入していったのであろうか?
2)ラケット構造
ヨネックス社のラケットのフレーム形状は、他社とやや異なる。テニスラケットの業界への参入当時からの技術であり、これは現在まで脈々と受け継がれている。それは「アイソメトリック構造」と呼ばれる、ラケット面の形状を若干四角気味にすることで、スイートスポットエリアを広げるという特長を持った構造だ。
VCOREシリーズにもこの構造が採用されており、これによりスイートスポットでとらえるショット確率を上げている。さらにVCOREではこれに加え、グロメット(ガットを通す穴部分)に改良を加え、フレームの空気抵抗を低減して加速するスイングスピードを実現している。
3)新次元カーボン素材の採用
素材の開発はまさに日進月歩といえるだろう。ラケットメーカーは常に最大の理想とするラケット製作を目指し、素材開発競争をしている。VCOREではフレーム袖部分(ラケット面の根本付近)に新次元カーボン素材を配し、柔軟性をアップさせつつ、反発強度を高めるという、相反する機能を達成した。
4)ストリング稼働域の増加
ストリングの稼働域を増加させ、ストリングスへのボールの食いつき量をアップさせ、かつストリングスの戻り(スナップバック)によってより多くの回転をボールに与える構造となっている。これはスピン量増大に大きな役割を果たす。
ヨネックス社の技術集大成ともいうべきこれらの技術を盛り込んだVCOREは、マシンテストにおいて従来品比スピン量13%アップを実現し、高弾道・高レートスピンボールを生み出す西岡選手にうってつけのラケットといえるだろう。
そして西岡選手とは切っても切り離せないこの「スピン量」は、高弾道で深いボールだけが武器ではない。西岡選手はサウスポーであり、特にアドサイドからのサーブでワイドに切れていくサーブ、相手ボディに食い込むサーブをコンビネーションしてポイント確率を上げている。
スピン量が増せば増すほど、ワイドはより遠くへ、ボディへもより急角度で食い込んでくるサーブとなる。相手プレーヤーはアドサイドからのサーブでより遠くへ振られ、西岡選手はより楽にオープンスペースへ決めることができる。
また大柄で懐の深い選手もより動かされることにより、次の西岡選手ショットに対する対応が遅くなっていく。ボディへのサーブがより急角度となれば、相手プレーヤーのミスショットする確率は増大する。
VCOREの一押しの特長である「スピン量増大」は、西岡選手の武器としている能力を最大限発揮させ、未知の領域まで導いてくれるウェポンとなる可能性を秘めている。VCOREが西岡選手のプレースタイルに適合したラケットであることを示す大きな所以である。
西岡選手使用のVCORE98仕様を下記にまとめる。
フェース面積;98平方インチ
重量;305g
バランスポイント;315㎜
フレーム厚;22㎜(ヘッド)/22㎜(フレーム)/21㎜(シャフト)
ストリングパターン;16x19
ストリングス
次に西岡選手使用のストリングスをみてみよう。
西岡選手使用のストリングスは,ヨネックス社 Polytour SPIN125というモデルだ。ラケットもさることながら、ボールが直接触れるストリングスは、テニスプレーヤーにとって非常に重要なパーツである。
西岡選手はここでも自らのプレースタイル特性を最大限生かせるストリングスを採用している。
Polytour SPIN125の技術的な特徴をひもとき、その理由を探ってみよう。
1)5角形モノフィラメント
ヨネックス社のストリングスラインナップの中で、このPolytour SPINシリーズだけが、この5角形モノフィラメント形状を採用している。形状を5角形にすることでボールの引っ掛かりを増大させ、スピン性能の高める構造である。
5角形ときいただけで、ガットがボールに食い込むイメージがわき、スピン量が増大することを想像させる。
2)SIF製法
ヨネックス社の技術情報によれば、Silicon oil Infused Filament technologyのS,I,Fをとり、SIF製法と名付けている。潤滑性の高いシリコンオイルをストリングス内部にしみこませ、ショット時にストリングスが大きく動きやすく、素早くもとに戻りやすい性質を持たせている。
ショットインパクト時にボールをつかんだストリングスが大きく動き、そして戻ろうとすれば、ボールに与える回転量は紛れもなく増大する。
西岡選手はVCORE98の特性をさらに高めるストリングスを採用し、自らのプレースタイルの特長をますます伸ばそうとしている。このストリングスは西岡選手の目指す方向性にピタリと合っているものであるといえる。
シューズ


西岡選手の武器は、ショットだけではない。ATPツアー屈指のフットワークである。テニスというスポーツは、どんなスーパーショットを放ったとしても、相手コートに一球でも多く返球したプレーヤーが勝つ。
ショットのパワーやスピードで劣っていたとしても、返球できるポジションに到達できていれば、理論上は「負けない」ことになる。
逆に言えばどんなにショットにパワーやスピードを持っていても、返球できるポジションにいなければ負けてしまう。
驚異の柔軟性、予測力、安定したバランスが崩れない世界ナンバーワンプレーヤーのジョコビッチ選手をして、「ニシオカは危険なプレーヤーだ」と評価される西岡選手のフットワークは超一流である。ではそれを支えているのはどんなシューズなのだろうか?
1)パワークッション+
西岡選手使用のシューズは、ヨネックス社製 Power Cushion Fusion REV3 Menというモデルである。西岡選手の試合は、相手がビッグサーバーであり、サービスエースを量産する場合を除いて、ショートポイントが少ない。
ラリー戦を続けながら、展開をみて仕掛け、奪っていくポイントが多い。またフットワークが武器ということからも、まず持久戦を考えねばならない。そのため、まずは生命線である足への負担をできるだけ軽減できるシューズが望ましい。
このPower Cushion Fusionシリーズは、パワークッション+というヨネック社新規開発素材を採用している。その特長は、衝撃吸収性、軽量化、そして高反発性である。
この素材は、7m上方から生卵を落とし、割れずに4m跳ねあがるという、大きな衝撃吸収性を持ちながら、非常に高い反発性を持つという夢のような素材である。しかも軟質ウレタン素材の1/10という極めて軽い材料だ。
2)新設計フレクションアッパー
シューレース(靴ひも)を締めこみの圧力が集中しやすい足の場所を避けてレイアウトし、圧力を足全体に分散させて、包み込みこむようなフィット感を出している。
シューズを足に包み込み、締め付けによる圧迫感を軽減させ、西岡選手のように長時間にわたり激しく動くプレーヤーの足疲労感をできるだけ抑える技術だ。
軽く、動きへの反発性も高く、衝撃吸収性に優れる。しかも疲労感をできるだけ足に与えない構造である。まさに西岡選手驚異のフットワークを支える一品といってよいだろう。
まとめ
西岡選手使用の各ツールについてお楽しみいただけたであろうか?残念ながら現在は西岡選手の雄姿を大会で見ることはできないが、ツアーが再開されたあかつきには、是非本記事で取り上げた部分に着目し、西岡選手のプレーを見てもらいたい。
試合の面白さが倍増することだろう。
また自らもテニスをプレーする読者には、行動の制限がとかれたころに、まずはラケット試打会などでこのVCOREシリーズを試してみるのも一興である。